食品工場の自動化 — 人手不足時代の生産体制づくり

ロボットアームとコンベアが稼働する食品工場で働く白衣姿の作業員

食品工場の自動化は、フードロボティクス市場の中で最も投資規模の大きい領域です。弁当・惣菜・冷凍食品・調味料など、私たちの食を支える食品製造業は、深刻な人手不足と原材料・エネルギーコストの上昇に直面しており、省人化と生産性向上を目的とした食品工場の自動化投資が広がっています。本ページでは、工程別の自動化の現在地と、AI画像認識、HACCP対応の衛生設計、中小工場への展開状況を解説します。

広告

食品工場が直面する構造課題

食品製造業は、製造業の中でも特に労働集約的な産業です。多品種少量生産、短い製品ライフサイクル、日配品ゆえの深夜・早朝稼働という特性から、機械化が難しい工程が多く残り、人手への依存度が高い状態が続いてきました。厚生労働省の統計等では、食品製造業の欠員率は製造業平均を上回る水準で推移しており、特に地方の工場では「募集しても人が来ない」状況が常態化しています。

これまで現場を支えてきたパート従業員の高齢化も進み、外国人技能実習生・特定技能人材への依存度は年々高まっています。しかし、国際的な人材獲得競争と円安環境の下では、海外人材の確保も以前ほど容易ではありません。加えて、食品業界には厳格な衛生管理・品質管理の要請があり、教育コストの高さと人の入れ替わりの激しさが品質リスクに直結します。「人を確保して生産を維持する」戦略の限界が明確になったことが、食品工場の自動化・ロボット導入を加速させている根本要因です。

工程別に見る自動化の現在地

食品工場の生産工程は、おおまかに次の流れで構成されます。それぞれの工程で自動化の成熟度は大きく異なります。

  1. 原料受入・前処理洗浄・カット・皮むきなどの下処理
  2. 調理・加工加熱・撹拌・成形・味付け
  3. 充填・盛り付け容器への計量充填・盛り付け
  4. 包装・シールトップシール・ラベル・帯掛け
  5. 検品・検査異物・重量・外観・シール不良の検査
  6. 箱詰・出荷ケース詰め・パレタイズ・搬送

包装・検査・箱詰・パレタイズといった後工程は、専用機と産業用ロボットによる自動化が最も進んだ領域です。一方、前処理や盛り付けなど食材そのものを扱う工程は自動化率が低く、人手が集中しています。工程別の自動化進捗をイメージで示すと次の通りです。

工程別の自動化進捗イメージ(食品工場)

包装・シール
高い
検品・検査
高い
箱詰・搬送
中〜高
調理・加工
中程度
盛り付け
低い
原料前処理
低い

※各種業界調査・展示会動向をもとにした定性的なイメージです。

フードロボティクスの投資対象として注目されているのは、まさに自動化率の低い盛り付け・前処理工程です。この「残された人手工程」を狙って、スタートアップと食品機械メーカーの開発競争が続いています。詳しくは盛り付け・弁当製造の自動化をご覧ください。

AI画像認識が変える検品・検査

食品工場の自動化で近年最も進歩が著しいのが、AI画像認識を活用した検品・検査工程です。従来の画像検査装置は、良品・不良品の判定基準をルールとして人が定義する必要があり、形状のばらつきが大きい食品への適用には限界がありました。ディープラーニングの導入により、大量の画像データから「良品らしさ」をAIが学習し、髪の毛などの異物混入、焼きムラ、欠け、盛り付け不良といった多様な不良を高精度で検出できるようになっています。

大手食品メーカーでは、原料検査へのAI活用が実用化されています。よく知られた事例として、キユーピーグループがベビーフード用原料(ダイスポテト等)の検査にAI画像認識を導入し、不良品検出の負担を大幅に軽減した取り組みがあり、その後、原料検査AIの外販にも展開されました。X線検査装置・金属検出機といった既存の検査機器とAI外観検査を組み合わせる「多層防御」が、現在の食品安全管理の標準形になりつつあります。

広告
[PR]

HACCPと衛生設計 — 食品工場ならではの要件

食品工場にロボットを導入する際、一般の製造業にはない大きな制約となるのが衛生要件です。2021年6月からHACCP(危害要因分析重要管理点)に沿った衛生管理が全ての食品等事業者に完全義務化され、工程ごとの衛生管理計画と記録が求められるようになりました。ロボット・自動化設備もこの管理体系に組み込まれる必要があります。

具体的には、高圧洗浄・薬剤洗浄に耐える防水性能(IP65〜IP69K相当)、食品接触部への食品衛生法適合素材の使用、液だまり・粉だまりができないサニタリー設計、グリスなど潤滑剤の食品グレード化といった要件が挙げられます。産業用ロボット大手各社は食品対応仕様のロボットアームをラインアップしており、「洗えるロボット」が食品工場向けの標準になりつつあります。また、自動化はHACCPの観点でもプラスに働きます。人の作業が減ることで毛髪や細菌の持ち込みリスクが下がり、温度・時間などの管理記録もセンサーデータとして自動取得できるため、衛生管理の高度化と省人化を同時に達成できるのです。

中小食品工場への展開と課題

食品工場の自動化は、資本力のある大手から中堅・中小へと裾野を広げる段階に入っています。その担い手として期待されているのが、安全柵なしで人と並んで作業できる協働ロボットです。1台数百万円程度からと導入しやすく、既存レイアウトを大きく変えずに設置できるため、箱詰めや整列といった単純工程から自動化を始める中小工場が増えています。国の中小企業省力化投資補助金など、省人化投資を対象とする支援制度の拡充も追い風です。

一方で課題も明確です。最大のボトルネックは、食品分野に精通したロボットSIer(システムインテグレーター)の不足です。食品工場の自動化は、機械・電気だけでなく食品衛生・品質管理の知見を要するため、対応できるSIerが限られ、案件が集中しています。また、多品種少量の生産計画にロボットをどう組み込むか、段取り替えの負荷をどう抑えるかといった生産技術面の設計力も問われます。導入費用の考え方と支援制度の詳細は導入コストとROIで解説しています。